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トラウマとは何? トラウマの原因や身体への影響、治療法など解説

公開日
更新日

 
執筆:須賀 香穂里(ライター)
医療監修:豊田 早苗(医師、とよだクリニック院長)
 
 
『トラウマ』という言葉を昨今はよく聞くようになってきました。
 
トラウマは誰でも抱える可能性のある、こころの傷です。
 
人間は生きていくうえで多くの障害にぶつかり、挫折を繰り返して成長していきます。
 
しかしその中で、受け止めきれないほど大きなショックを与える出来事に直面してしまうと、そのショックがこころの大きな傷となり、「トラウマ」になるのです。
 
トラウマは目に見えない傷です。
 
トラウマを抱えると、病気というわけでもないのに体の調子を崩してしまったり、普段通りの生活ができにくくなったりします。
 
そんな「トラウマ」をもっと詳しく、我々のこころや身体にどのような影響を与えるのか、克服するにはどのようにしたらよいのかを解説していきたいと思います。
 
 

トラウマになるような体験

 
トラウマとは心的外傷といって、過剰な恐怖や生命の危機を感じることを体験もしくは遭遇したことによって負ったこころの傷のことです(1)
例えば、以下のようなもの。
「小さいころにとても大きな犬に手を噛まれて、とても痛いし、このまま食べられてしまうと思った。噛まれた手からは血が出ていた。それ以来、大人になっても犬が怖くて近づけない」
 
このようなものも、トラウマになった体験ということができます。
 
このような体験のことを、『トラウマ体験』といいます。
 
トラウマ体験は、その人の生命や存在に強い衝撃や脅威をもたらす出来事のことを指します。
 
上の犬の例でいうと、小さい子供にとっては『犬に噛まれた=食べられて死んでしまう』という恐怖体験だったわけですね。これも含めて、トラウマ体験とされる出来事は大きく4つのカテゴリに分けられます。
 
 

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トラウマ体験の具体例とは

 

自然災害

 地震や洪水、台風、火山の噴火など
 
 

社会的不安

 戦争被害、テロ事件、暴動など
 
 

生命の危機に瀕する体験

 暴行、自己、犯罪、性的被害
 
 

個人的な体験

 家族・友人など大切な人の死、喪失
 
 
このような体験は、当人に強い衝撃を与えるものであれば、自分が実際に体験した場合、さらに友人など他人が体験したものを目撃してしまった場合も、トラウマ体験として含まれます。
 
 

「トラウマ」体験の特徴

 
トラウマになりやすい出来事にはいくつか特徴があります。
 
この特徴を理解しておくことはトラウマの理解にも役に立ちます。上記のトラウマ体験の例をみながら確認してみましょう。
 

予測できない

基本的に、人間は起こるのがわかっている出来事に対しては、それに備えてこころの準備をできます。
 
例えば、テレビを見ているときに「これから怖い映像が流れるので注意してください」と事前に忠告されれば、心構えをしたり目を瞑ったりできますよね。
 
ところが何の予告もなしに、いきなりテレビ画面いっぱいに血だらけの人間がドアップで映ったら誰でもびっくりします。
 
こんな風に不意を突かれるような予測できない出来事は、準備できていない無防備な状態であるためにとても大きな衝撃を受けます。
 
しかもこのような出来事は、地震のように「次またいつ起こるか分からないもの」であることが多く、「対処できない」という感覚を強めてしまうのです。
 
心構えが出来ない、対処できない出来事は、こころに衝撃を受けやすく、トラウマになりやすいのです。
 

命に関わるほど恐ろしい内容

直面した出来事が「命に関わるほど恐ろしい」のも重要なポイントです。
 
命に関わる出来事は人のこころに大きな衝撃をもたらします。また、非常に残虐なものやグロテスクなものもトラウマになりやすいです。
 

「自分は無力だ」と感じてしまう

「対処できる」という感覚があるのとないのとでは、感じる恐怖や脅威は段違いです。
 
自分でコントロールできずに、ただ目の前の状況に圧倒されて流されてしまうような状況はトラウマになりやすいのです。震災などの自然災害はこの典型的な例といえます。
 

身近な人に起こった出来事

トラウマ体験は自分自身が体験したものに限りません。
 
「親しい人に恐ろしいことが起こったのに自分は何もできなかった」という無力感や怒り、罪悪感はトラウマの原因になりやすいです。
 
特に、その結果としてその親しい人がなくなってしまった場合は、「外傷性悲嘆」と呼ばれるトラウマ症状につながることがあります。
 
 

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トラウマとストレスの違いとは?

 
トラウマは体験した出来事からこころが大きな衝撃や負担を受けて発生するもので、いわば強いストレス体験から受けたこころの傷ということができます。
 
それではトラウマになるストレスとそうでないストレスの違いとはなんなのでしょうか。
 

トラウマの精神医学的定義

トラウマに関する定義としてもっとも使われているのは、『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(米国精神医学会)に載っているものです。
 
そこでは、以下の2つを満たすものをトラウマとして定義しています。
 

  • ・命に関わる出来事や、身の安全を脅かすような出来事を体験した、または目撃、直面した。
  • ・その体験に恐怖、絶望感、無力感などの感情が伴っていた。

 
しかし『DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』による定義は、改訂されるたびに変えられてきており、トラウマの定義はそれだけ難しいものであることが伺えます。
 

トラウマティック・ストレスとその他のストレスの区別

上記の定義を参考にすると、トラウマ性のストレスとその他のストレスとの違いが見えてきます。
 
トラウマ性のストレスの第一の特徴は、ストレスを感じるその出来事に強い恐怖や衝撃が伴うことです。
 
「人の多い場所にストレスを感じる」「仕事が多すぎて辛い」などといった一般的なストレス状況は、突発的な恐怖や衝撃はあまりありません。
 
そしてもう一つの特徴として、トラウマ性ストレスは、ストレス源である状況を「脅威」とみなし、自分の身を守るために極端な反応を引き起こすことがあげられます。
 

  • 「その状況から逃げようとする(逃走)」
  • 「その状況に立ち向かおうとする(闘争)」
  • 「硬直状態に陥り動けなくなる(凍り付き反応)」

 

このような反応は咄嗟に起こるもので、やろうと思ってやっているわけではありません。
 
仕事が多すぎてストレスが溜まるからといって、無意識に会社から逃げ出したり、書類を破り捨てたりはしませんよね。
 
つまり、トラウマ性ストレスとその他のストレスの違いは、そのストレス状況に陥った時に咄嗟に身を守るための反応を引き起こすかどうか、ということになります。
 
しかしその出来事がトラウマになるかどうかは、人によって違います。
 
これは恐怖を感じる出来事や、身の危険を感じる出来事が人によって違うからです。だから事故や問題が起こっても、それが全ての人にとって「トラウマである」と言い切ることはできません。
 
 

トラウマ から起こるストレス反応

 
先ほどトラウマは強いストレスから受けたこころの傷であると言いました。心に傷を負っている状態というのは、それだけでストレスになります。
 
人は強いストレスを感じると心身の健康に影響を及ぼします。そして起こる体調不良等の現象を「ストレス反応」と呼びます。
 
ここではトラウマ体験の後に現れるストレス反応をいくつか紹介したいと思います。
 

トラウマの再体験

フラッシュバック、というとわかりやすいでしょうか。
 
身体はここにあるのに、意識だけがトラウマ体験当時に戻ってしまい、今リアルにその体験をしているような感覚に陥ることをいいます。
 
全く別のことを考えているときに突然トラウマ体験の記憶が蘇ってくるのです。
 
また当時の体験を思い起こさせるようなものをきっかけに、めまいや過呼吸などの身体症状を引き起こす再体験のしかたや、トラウマ体験を夢で再体験するというパターンもあります。
 

回避・麻痺

体験した辛い出来事はできるだけ思い出したくありませんよね。フラッシュバックなどにより突然辛い出来事を思い出すのは酷く苦痛です。
 
そこで人間は自分を守るために、「思い出さないようにしよう」という機能を働かせます。過去の体験を思い出させるような場所やものを避けるようになるのです。
 
また「ぼーっとする」というのもよく見られる現象です。自分が経験した出来事を正面から受け止めるのは苦しいので、「少し意識を外して」ぼーっとした状態になり、苦しみを和らげようとするのです。
 
しかしこれは度を過ぎると、「解離」といって自分の中から「記憶を切り離してしまう」ようになってしまいます。
 
解離が起こると、その体験の重要な側面を思い出せなくなってしまいます。ただし、思い出せなくなった記憶は、トラウマから回復してくると蘇ってくることが多いです。
 

過覚醒

これは脳が敏感になりすぎている状態、「常にピリピリしている」状態のことです。
 
不眠や集中困難、怒りっぽくなる、イライラするなどの症状が見られます。
 

抑うつ

気分が落ち込んでしまい、その状態が長く続いてしまうことです。何事にも興味を持てなくなったり、食欲不振や不眠などの身体症状も現れます。
 

その他の身体反応

上記のような症状のほかに、疲労感や頭痛、胃腸の不調、食欲不振、めまい、過呼吸などの身体的な症状もみられることがあります。
 
 

トラウマ に関連した病気

 
前述した症状は、あくまでストレス「反応」であり、病気ではありません。
 
擦りむいた膝から血が出るのと同じように、トラウマから起こる自然な反応なのです。けがをしても、小さな傷ならいずれ自然と治っていきます。
 
しかし擦りむいた傷がきちんと手当てをしないといけないほど大きなものなのに、それをそのまま放置しておけばバイ菌が入って炎症を起こしてしまいます。
 
それと同様、トラウマによるストレス反応が重度であるにもかかわらずそれを放っておくと、いずれ病気に発展してしまいます。
 
トラウマから発展した代表的な病気は2つあります。
 

急性ストレス障害(ASD)

なんらかのトラウマ体験をした後で、先ほど紹介したストレス反応のうち「再体験」「回避・麻痺」「過覚醒」の症状の持続が一か月未満であり、そのほかに「現実感のなさ」「ぼーっとした感じ」「自分が自分でない感じ」などの解離症状が3つ以上みられる場合に診断されます。
 
また、ASDの診断の条件として、日常生活に支障をきたしていることがあげられます。
 
(※急性ストレス障害については、「急性ストレス障害:トラウマが原因となるってホントなの?」の記事で詳しく説明しています)
 

心的外傷ストレス障害(PTSD)

ASDの症状が1か月以上続くと、診断はPTSDに移行します。
 
症状が重症化すると、幻聴や妄想がみられることもあるようです。
 
トラウマは突発性の出来事から受けるものが大半で、避けることは難しいところがあります。
 
もしトラウマを作ってしまったら、病気に発展する前に回復できるのが望ましいです。そこで次の項ではトラウマの治療法を紹介していきたいと思います。
 
 

トラウマから回復するために

 
ここではトラウマから回復するために自分自身でできることを説明します。
 

人に話を聞いてもらう

自分の中でトラウマを抱え込んでしまってはよくありません。
 
貴方のことを受け入れてくれて、そっと支えてくれる信頼できる人に話を聞いてもらいましょう。誰かに話すことでトラウマ体験と向き合い、自分の中でトラウマの消化や慣れを進めることができます。
 
話を聞いてもらうときには、「アドバイスはいらないからただ話を聞いてほしい」と伝えましょう。
 
ああしたほうがいい、こうしたほうがいいと言われると、「トラウマから抜け出せないのは自分のせいなのだ」と自分を責めてしまうことがあり、抑うつ気分につながったりしますので、注意が必要です。
 
トラウマはこころの傷であり、けがをしている状態なのですから痛いのは当たり前で、決してあなたのせいではありません。
 
しかし「話を聞くこと=アドバイスを求められている」と考える人も多いので、自分はただ気持ちを整理するために話を聞いてほしいだけなのだということを先に伝えてから話すようにするといいでしょう。
 

ストレス反応は自然なものだと知っておく

先ほどいくつかのストレス反応について紹介しましたが、トラウマ体験の後に現れるこれらの症状は自然なものだということをもう一度確認しておきましょう。
 
「ストレス反応が起こるのは自分が弱いせいだ」「あの出来事のせいで自分はおかしくなってしまったんだ」などという考えに陥ってしまうと、こころの余裕がなくなって回復が難しくなってしまいます。
 
「ストレス反応が起こるのは自然なことで、時間が立てば治まるから大丈夫」というこころの余裕を保つようにしましょう。
 

できる範囲でいつも通りの生活を維持する

一日のタイムスケジュールなど、表面的な部分だけでもいいのでいつも通りの生活を維持するように心がけましょう。
 
ただし無理をして「いつも通り」にする必要はありません。
 
安心して、リラックスできるようなルーティンを続けてみたり、休憩中にいつも飲んでいた紅茶を入れてみたり、などといったことでよいのです。それに加えて規則正しい生活やしっかりした睡眠を心掛ければこころと身体が安定しやすくなります。
 

「できない自分」を責めない

これは、以上のようなことを完璧にやり遂げよ、ということではありません。できないことがあって良いのです。
 
ここで紹介しているのは「やり遂げなければいけないこと」でも「できなければいけないこと」でもなく、「できる範囲でやってみるとあなたの助けになりますよ」ということなのです。
 

あまり効果的でないこと

  • ・アルコールに頼る
  • ・家に引きこもって外部の活動に参加しない
  • ・トラウマについて思い出すのを極端に避ける

これらはあまり効果的ではありません。
 
自分を追い込むような行動はこころの余裕を失わせ、回復を遅らせがちです。あくまでも「今の自分を受け入れて、信頼する」ことが大事なのです。
(ただし、これらは「してはいけないこと」ではありません)
 
 

専門的なトラウマ療法

 
専門的なトラウマの治療法に、「EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)」というものがあります。
 
これはトラウマ体験を思い浮かべながら眼球を動かすことでこころを落ち着かせる治療法です。この方法は最近になってトラウマに関わる疾患の治療法として注目されてきました。
 
方法自体はそれほど難しくありません。
 
トラウマとなっている辛い記憶を思い出しながら、指や機械の光の動きを追って目を左右交互に動かします。治療の手順としてはたったそれだけです。
 
目を動かすだけで何故トラウマの治療につながるのでしょうか。これにはトラウマになっているときの脳の働きに関係があります。
 
人の脳は感性をつかさどる右脳と、記憶を処理する左脳に分けることができます。
トラウマになっているとき、人の脳は右脳が興奮した状態に陥る一方で左脳の働きは低下します。
 
「怖い、辛い」といった感情が溢れる一方で、辛い記憶を思い出さないように左脳の働きが低下するのです。こうなると、右脳と左脳の働きのバランスが崩れてしまい、こころや身体に異常が現れるのです。
 
EMDRではこのバランスを失った左右の脳の活動を、バランスを取れた状態に戻すことを目的とします。
  
2つの目はそれぞれ、左目は右脳、右目は左脳につながっています。目を左右交互に動かすと、脳にも左右交互の刺激が伝わり、右脳の興奮状態と左脳の機能低下状態を和らげることができるのです。
 
EMDRは世界保健機関によって患者の負担が最も軽いトラウマの治療法として推奨されています。
 
 

トラウマはだんだんと治まる

 
多くのトラウマ体験は突発的な出来事で、事前に防ぐことはほとんどできません。
 
しかし何かを行う前に起こりうる事態の予測をしておく、予行練習をしておくなど、事前の準備によって多少防ぐことができる場合もあります。
 
また例えトラウマをもってしまっても、それはあなたが弱いからではありません。
 
運悪くけがをしてしまっただけで、あなた自身に何にも問題がないことをもう一度確認してください。トラウマからなかなか抜け出せないからといって自分を責めるのはやめましょう。
 
トラウマは辛いものですが、時間をかければだんだんと治まります。
 
治らないけがはないのだと考えて、こころに余裕を持つことが一番大切です。

 
トラウマから回復するのに、この解説記事が少しでもお役に立てたら嬉しく思います。
 
 
【参考文献】
(1) バベット・ロスチャイルド(国際トラウマティック・ストレス学会)(2015).これだけは知っておきたい PTSDとトラウマの基礎知識 訳:久保隆司(カルフォルニア臨床心理大学院東京キャンパス非常勤講師) 創元社 pp.10-14,156-164
(2) 水島広子(対人関係療法専門クリニック院長)(2011).正しく知る心的外傷・PTSD ‐正しい理解でつながりを取り戻す‐ 技術評論社 pp.21-22,30-36
(3) 文部科学省『外傷(トラウマ)体験とは』 
(4) NHK『クローズアップ現代・心と体を救う トラウマ治療最前線』 
(5) ストレス・ラボ『EMDRに挑戦してみよう』 

 
 
<執筆者プロフィール>
須賀 香穂里(すが・かほり)
神奈川大学人間科学部・人間科学科所属。社会心理学や人間関係をテーマとした執筆活動を行っている
 
<監修者プロフィール>
豊田 早苗(とよだ さなえ)
鳥取大学医学部医学科卒業。2001年医師国家試験取得。総合診療医としての研修及び実地勤務を経て、2006年とよだクリニック開業。2014年認知症予防・リハビリのための脳トレーニングの推進および脳トレパズルの制作・研究を行う認知症予防・リハビリセンターを開設。著書に『あがり症克服プログラム』『3分ストレス解消法』など
 
 

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